けいざいの温度計

金利の正体

「金利が上がった」と言われた時、それはどの金利のことでしょうか。日本で日常的に登場する主要な金利を整理して、データで違いを見ていきます。

1. ニュースで聞く「金利」、実は何種類もある

「日銀が利上げ」「住宅ローン金利が上昇」「メガバンクが預金金利を引き上げ」——同じ 金利 という言葉でも、ニュースが指しているものは別物です。 政策金利・長期金利・公定歩合・預金金利・貸出金利・住宅ローン金利……すべて違う数字で、それぞれ動く理由も違います。

このページでは、まず中心となる 4 種類(政策金利、長期金利、公定歩合、預金金利)を整理し、続けて金利が期間で変わる仕組み(イールドカーブ)と、家計が実際に払う住宅ローン金利・貸出金利まで広げて見ていきます。

2. 早見表 — 今動いている 3 つの金利

細かい話に入る前に、いまニュースで動いている 3 つの金利を 1 枚の表にまとめます。「誰が決めるのか」「なぜ動くのか」「家計のどこに効くのか」——この 3 点が押さえどころです。

金利 誰が・何が決めるか 動く理由 家計への主な経路
政策金利 短期 日銀(金融政策決定会合、年 8 回) 日銀の金融政策判断 変動型住宅ローン、普通預金
長期金利 10 年 債券市場の売り買い インフレ・成長・財政リスクの予想 固定型住宅ローン・フラット 35、生命保険の予定利率
預金金利 各銀行が自由に設定 政策金利+銀行間の競争 預金の利息(インフレには負けがち)

表の縦の並びは、おおむね「日銀が直接動かす ⟶ 市場が動かす ⟶ 銀行が決める」の順です。 公定歩合は現役の金利ではないため表には入れず、7 章で別に扱います。次章から 1 つずつ見ていきます。

3. 政策金利とは

政策金利 は、日銀が誘導する 短期金利 のことです。日本では「無担保コール翌日物」がそれで、銀行同士が「1 日だけ」お金を貸し借りする金利の誘導目標を、日銀が金融政策決定会合(年 8 回)で定めます。

用語:無担保コール翌日物とは

銀行は毎日、お金が余る日と足りない日があります。その日ごとの過不足を銀行同士で 1 日だけ貸し借りする市場が コール市場 です(「呼べばすぐ届く(call)お金」が名前の由来)。そこで「担保なし」で「今日借りて翌営業日に返す」取引につく金利が 無担保コール翌日物レート。日本のあらゆる金利の出発点で、日銀が誘導目標を置くのもこの金利です。ニュースの「政策金利」はほぼこれを指していると考えて構いません。

なぜ「翌日物」かというと、最も短い満期(=1 日)の金利を中央銀行がコントロールすることで、そこから派生するすべての金利(住宅ローン変動、預金、社債など)に間接的に影響を与えるからです。中央銀行のレバーはこの 1 点だけ、という設計思想です。

政策金利は長くゼロ近傍に置かれてきました。2016 年には マイナス金利(−0.1%)が導入され、銀行が日銀に預ける資金の一部に「預けると目減りする」金利がかけられる異例の局面に入ります。2024 年 3 月にマイナス金利は解除され、その後の段階的な利上げを経て現在の水準に至っています。

よくある誤解:政策金利が上がっても、固定金利の住宅ローンや既存の定期預金がすぐ動くわけではありません。政策金利の変化が直撃するのは、変動金利型ローンと新規の預金です。

2026 年 4 月 時点の政策金利は 0.50%。詳細データと歴史的推移は 政策金利ページ へ。

4. 長期金利とは

長期金利 は、市場で決まる 10 年物国債(日本国債)の利回り です。報道で「長期金利」と言われたら、99% は 10 年国債利回りを指していると思って構いません。厳密には「期間 1 年超の金利」の総称で 20 年・30 年もありますが、流動性と取引量から 10 年が代表選手として扱われます。

政策金利と違って 市場で決まる 点がポイントです。毎日刻々と動き、市場参加者の将来予想(インフレ・成長・財政リスク)を反映します。日銀は YCC(イールドカーブ・コントロール) でこの長期金利にも介入していましたが、2024 年に基本的な枠組みは外しました。

長期金利を理解する上で外せないのが、国債の価格と利回りは逆方向に動く という関係です。国債が買われて価格が上がると利回りは下がり、売られて価格が下がると利回りは上がります。「長期金利が上昇した」というニュースは、裏を返せば「国債が売られた」ということです。

日本の長期金利は、米国など海外の長期金利とも連動します。2022〜2023 年に日本の長期金利が上昇圧力を受けたのは、米国のインフレと利上げで米 10 年債利回りが急騰し、その波が世界の債券市場に及んだためでした。

長期金利は 住宅ローン固定金利・フラット 35生命保険の予定利率企業の社債発行金利 の基礎になります。家計が金利上昇を実感しやすいのはこちら側です。

100 万円の国債を買ったら、いくらもらえるか

長期金利の数字を「自分が国債を買ったとしたら」の視点で見ると、ぐっと具体的になります。金利は年率(年あたりの%)で表示されるのが原則です。「長期金利 2.7%」というのは「1 年で 2.7% 分の利息」という意味で、月利でも日利でもありません。

具体例として、いま新しく発行された 10 年物の日本国債を額面 100 万円 分買ったとします。2026 年 5 月 の長期金利 2.650% (直近営業日 2.655%) の水準で発行されたと仮定すると——

仮定する金利 年間の利息 半年ごとの利払い(× 年 2 回) 10 年で受け取る利息合計
2.650%(2026 年 5 月 月次平均) 26,500 円 13,250 円 265,000 円
2.655%(直近営業日) 26,550 円 13,275 円 265,500 円

ポイントは 「毎年」もらえる こと(毎月ではありません)。実務上の利払いは年 2 回(半年ごと)に分割して支払われます。たとえば 2.700% なら、半年ごとに 13,500 円が口座に振り込まれ、それが 10 年間で 20 回続き、10 年後の満期日には元本 100 万円 が戻ってきます。受け取る利息の合計は約 27 万円で、これが「100 万円を 10 年間、国に 2.7% の年率で貸した対価」になります。

なお実際に振り込まれる金額は、利息に対して 20.315% の源泉税(所得税・住民税・復興特別所得税の合計)が引かれた後の手取り額になります。13,500 円の利息なら、約 2,742 円が税金で、手取りは約 10,758 円。長期で見ると合計の税負担はそれなりに大きいので、頭に入れておくと「年率%」の見え方が変わります。

表面利率(クーポン)と市場利回りは厳密には別物

上の試算は「新しく発行された国債を額面どおりに 100 万円で買う」と仮定したシンプルな計算です。実際の国債には 表面利率(クーポンレート)市場利回り の 2 つの数字があります。

表面利率は発行時に決まる固定の数字で、額面に対する年利率(10 年物 100 万円・表面利率 2.7% なら毎年 27,000 円という具合)。一方、市場利回りはその国債を今いくらで売買できるかから逆算した実際の利回りです。発行後に金利情勢が変わると国債の市場価格が額面(=100 円)からズレ、買値と表面利率と償還差益(または差損)を組み合わせた「最終利回り」が市場利回りになります。ニュースで「長期金利 2.7%」と言われる時の数字は、この 市場利回り の方です。

新発債を額面で買う限り「表面利率 ≒ 市場利回り」で上記の計算で十分ですが、既発債を市場で買う場合は買値と表面利率の組合せで実際の手取りが変わる、と覚えておいてください。

2026 年 5 月 時点の 10 年国債利回りは 2.650%。詳細データと歴史的推移は 長期金利ページ へ。

5. 金利は「期間」で変わる — イールドカーブ

政策金利は「1 日」の金利、長期金利は「10 年」の金利。同じ「金利」でも お金を貸す(預ける)期間 によって水準は変わります。期間を横軸、利回りを縦軸にとって結んだ曲線が イールドカーブ(利回り曲線) です。

通常、期間が長いほど金利は高くなります(順イールド=右肩上がり)。先のことほど不確実で、長く預ける分だけ上乗せ(リスクプレミアム)が必要だからです。政策金利はこの曲線のいちばん左端(超短期)、長期金利は 10 年地点にあたります。

曲線が逆転して 短期金利が長期金利を上回る ことがあり、これを 逆イールド と呼びます。「景気がいずれ悪化し、将来は金利が下がる」と市場が予想している状態で、景気後退の前兆 として知られます(特に米国でよく注目されます)。

日銀が 2016〜2024 年に行った YCC(イールドカーブ・コントロール) は、政策金利(左端)だけでなく長期金利(10 年地点)まで日銀が抑え込み、曲線の形そのものを操作する という世界的にも異例の政策でした。 2026 年 5 月 時点では、長期金利 2.650% と政策金利 0.50% の差(イールドスプレッド)は 2.15 pt です。

6. 借りる側の金利 — 住宅ローンと貸出金利

ここまでは「市場や日銀が決める金利」でしたが、家計や企業が実際に 借りるとき に払う金利は、それらを土台にして銀行が上乗せ分を加えて決めます。

住宅ローンの変動金利 は、短期プライムレート(銀行が優良企業に貸す最優遇金利)を基準にしており、これは実質的に 政策金利 に連動します。政策金利が上がれば変動金利も上がる、という関係です。一方 固定金利・フラット 35長期金利 に連動します。「変動は短期、固定は長期」と覚えておくと、どのニュースが自分のローンに効くのか判断できます。

住宅ローンには 店頭金利(基準となる表向きの金利)と 適用金利(そこから優遇幅を引いた実際の金利)の 2 つがあります。広告で見かける低金利は適用金利で、優遇幅は審査内容や時期によって変わります。長期金利が住宅ローンの総返済額にどう効くかは 住宅ローンシミュレーター で試せます。

企業向けの 貸出金利 も同じ構造で、プライムレートや TIBOR(銀行間で資金を貸し借りする際の金利)を基準に、企業の信用力に応じた上乗せが乗ります。金利が上がると企業の借入コストが増え、設備投資が鈍る——この経路は 機械受注 などの先行指標に表れます。

7. 固定金利と変動金利、どちらを選ぶか

6 章で見たとおり、変動金利は政策金利に、固定金利は長期金利に連動します。では実際に借りるとき、どちらを選べばよいのか——これは突き詰めると 「金利上昇リスクを誰が負うか」の選択 です。

変動金利 は、固定金利より低めに設定されるのが普通です。ただし将来政策金利が上がれば返済額も増えます。金利が上がるリスクを借り手が引き受ける代わりに、今の低金利を受け取る 契約だと考えると分かりやすいでしょう。

固定金利・フラット 35 は、借入時の金利が完済まで変わりません。変動より割高ですが、その後どれだけ金利が上がっても返済額は動きません。金利上昇リスクを貸し手(銀行や債券の投資家)に引き受けてもらう代わりに、割高な金利を払う——上乗せ分は「返済額が読める安心」の対価です。

変動金利 固定金利(フラット 35 など)
連動先 短期プライムレート(≒政策金利) 長期金利(10 年国債利回り)
借入時の金利 低め 高め
金利上昇リスク 借り手が負う(返済額が増える) 貸し手が負う(返済額は不変)
向いている人 返済期間が短い・繰上返済の予定がある人 長期返済で、返済額を固定して家計を組みたい人

変動金利には、急な負担増を和らげる 2 つの仕組みがあるのが一般的です。金利が上がっても 5 年間は毎月の返済額を据え置く「5 年ルール」 と、見直し時も 前回返済額の 1.25 倍までしか上げない「125% ルール」 です。

ただし注意したいのは、これらは 返済額の見た目を抑えるだけ で、利息そのものが減るわけではない点です。据え置かれている間に発生した利息は 未払い利息 として後ろに繰り延べられ、負担が消えるわけではありません。「ルールがあるから変動でも安心」とは言い切れない、ということです。

判断材料:変動金利型を選ぶなら 政策金利 の動向、固定金利型なら 長期金利 の動向が効いてきます。固定金利の総返済額は 住宅ローンシミュレーター で試せます。

8. 公定歩合は今どうなっているか

公定歩合 は、1994 年以前に日銀が政策金利の主役として使っていたツールです。当時は預金金利・貸出金利が法律で公定歩合に連動するよう規制されており、日銀が公定歩合を動かせば、預金金利と銀行貸出金利が自動的にスライドしました。

しかし 1994 年の金利自由化で、預金金利は銀行の自由設定になりました。連動規制が外れた瞬間、公定歩合は政策ツールとしての役割を失ったのです。 2001 年には名前も「基準割引率および基準貸付利率」に変更され、現在は補完貸付制度の金利として、政策金利の天井機能のみを残しています。

教科書には今でも「公定歩合」と書かれていることがありますが、現代の日本の金融政策の文脈では、政策金利=公定歩合 ではない、という理解が必要です。

9. 預金金利は政策金利に連動するのか

結論から言うと、直接の連動はありません。1994 年以降、各銀行が預金金利を自由に決められます。ただし銀行間の競争で、政策金利が動けば普通預金金利もある程度ついてくる、というのが実態です。

ただし重要なのは、政策金利の動き全部は反映されない という点。差額が銀行の利ざや(預金で集めて貸出に回す時の利益)になります。実例を見てみましょう。

時期 政策金利 メガバンク普通預金
2024 年 2 月(マイナス金利時代) -0.10% 0.001%
2024 年 4 月(マイナス解除後) 0.0〜0.1% 0.02%
2024 年 9 月(利上げ後) 0.25% 0.1%
2025 年 2 月(再利上げ後) 0.50% 0.2%

数字を見ると、政策金利の変化幅 0.5pt に対して、普通預金金利の変化幅は 0.2pt 程度。約 4 割しか反映されていません。差額の 0.3pt 分は銀行の利ざやになります。 これは「銀行が悪い」ということではなく、預金者を集めて運用する商売の構造として、ある程度の利ざやがないと銀行業が成り立たない、という事情があります。

なお、ここで見ているのは 普通預金 の金利です。定期預金 はもう少し高く設定され、店舗を持たないネット銀行はメガバンクより高めの金利を出す傾向があります。とはいえ、次に見るように、いずれもインフレ率には遠く及びません。

結論:「金利のある世界」が戻ってきても、預金は救いにならない

2026 年現在、政策金利は 0.50%、メガバンクの普通預金金利はだいたい 0.2%、コアコア CPI 前年同月比は +1.9% です。

実質金利(預金金利 − インフレ率)はおおよそ -1.7%預金しているだけで、年率およそ 1.7% の購買力を失っている 計算になります。

マイナス金利が終わって「金利のある世界」に戻ったとはいえ、インフレに対して預金金利は圧倒的に足りていません。 このサイトの 「今月の温度」CPI ページ で示される現実は、預金以外の選択肢を意識する必要があるという話です。

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執筆方針
日本銀行・財務省など公式資料に基づく解説です。特定の金融商品・運用手法を推奨するものではありません。 投資・住宅購入の判断は、必ずご自身の状況と一次資料を踏まえて行ってください。
参考
日本銀行「金融政策の概要」「コール市場関連統計」、財務省「国債金利情報」、各銀行公式サイトの預金金利・住宅ローン金利公表値